人はどこまで普通列車に耐えることができるか(その4)
「ラーメン大王 東室蘭西口店」に入る。
入った瞬間、猛烈な勢いで眼鏡が曇り、何も見えなくなった。
眼鏡を外すと、厨房にはラーメン一筋30年という雰囲気が漂う、頑固そうなオヤジがいた。
カウンター席に陣取り、オヤジの迫力に負けないように
大きな声で「カレーラーメン」と注文した。
待つこと、5分ほど。
無愛想な「へい、お待ち!」という声と共に、カレーラーメンがやってきた。
は?「へい、お待ち!」だあ?
これは一体、どこの昭和のホームドラマに出てくるラーメン屋ですか!
ここには、最近はやりのラーメン屋のように、店員がへらへらした笑顔で
「お待たせいたしました。みそになります」などと言ってラーメンを出す、客に媚びた感じは全くない。
「これがオレのラーメンだ。気に入らなかったら出て行け!」と言うすがすがしさが
「へい、お待ち!」という言葉に込められて潔い。
正に、ラーメン屋の真髄を見たような感じであった。
そんな店主の気持ちのこもったラーメンを、ずるずると食べる。
「む、熱い、辛い」
汗がダラダラ出てくる。あちー、あちー。
凍てつく寒さの中で、カレーラーメンの熱さが体中に染み渡る。
うん、満足、満足。
満足したのであるが、一言言わせてくれ。
レジのバイト君よ、客の金を受け取るときは両手で丁寧に受け取りなさい。
(こういう細かいところにうるさい私)
「ひとり飯は、食べ物の味そのものよりも、その店の持つ雰囲気を味わうものだよな」
そんなことを感じてしまった、味の大王東室蘭西口店であった。
また、昭和の気分に浸りたいときに行くことにしよう。
東室蘭から、17:35発長万部行に乗ります。
ディーゼルカー2両の列車は、部活帰りの高校生で思ったより混んでいた。
ピーチクパーチクやかましかったが、そこは寛大な私である。
かわいい女子高生だったので、何もかも許してやることにした。
3冊目の読書。荻原浩「神様からひと言」
ただのドタバタコメディかと思ったが、最後はちょっとしんみりしていい感じだった。
奥田英朗好きなら、荻原浩もいけると思う。
こういう文体を、自分の文章にも取り入れてみたいなあ。
豊浦過ぎてからはガラガラ。ビバ、ローカル線。
日本一の秘境駅でマニアには有名な小幌駅も
この暗さではなにがなんだかよくわからず、イマイチ。
今度、明るいときに行くことにしよう。
途中、意識が遠のきながら、長万部到着。
まあ、長万部駅は、せたな出張で毎月のように行ってるし、特にこれと言ったものはない。
小樽周り札幌行きの普通列車に乗り換え。
函館から来る特急が遅れまくっていた関係で、20分ぐらい足止め。
本に没頭していたので、そこは気にしない。
この列車も素敵なぐらいガラガラだった。
3両編成だったのだが、あまりに人がいないためなのか
後ろの1両にロープが張られていて、人が入れないようになっていた。
いいなあ。こののどかな感じ。
暗闇の中、ガタンゴトンと揺られながら、ディーゼル列車に身をまかせる。
ふと、思った。
「ワンカップが飲みたい」
この列車に似合うのは、ビールでも焼酎でも、ましてや年代もののワインではない。
ここではハンティング帽をかぶって、競馬新聞を片手に、ワンカップを飲むものなのだ!
(耳に赤鉛筆をはさめていると、なおよい)
あー、これだけワンカップが似合う場所なのに、どうしてオレは酒が飲めないんだろう。
このときほど、自分の酒の飲めない体質が憎らしいと思ったことはなかった。
いや、ホントにココアなんて、お子ちゃまの飲み物を飲んでいる場合ではないでしょう。
酒を飲まないか!酒を!
(この時点で、クリスマスイブの自己嫌悪のことは忘れた)
ということで、本日4冊目の読書は、内田百閒「第二阿房列車」。
無意味な汽車の旅のときは、無意味な汽車の旅行記を読むのがいい。
相変わらず、内田先生とヒマラヤ山系氏のかみ合わない会話がステキである。
小樽到着。
ここで、ワンマン列車モードは終了し、一番後ろの車両も開放され
人がドカドカと乗り込み、ローカル線の旅情は終わった。
そういえば、8月だったなあ。
キャンプの帰り、輪行袋コクーンを抱えた、真中瞳に似たかわいい女の子を小樽駅で見かけたのは。
今ごろ、彼女はどこで何をやっているのだろうか?
似ている人の目撃情報があれば、私のところまで。
小樽からは、汽車は通勤列車の雰囲気に打って変わり、もう旅は終わったなあと。
後は桑園で乗り換えて、新川に戻って、0時10分ごろ、約18時間に渡る、長~い冒険は終わった。
「ゆっくり本が読めてよかったなあ」ということ以外は、まあ、これといった感想は特にないのだが
自転車で走り回ることができない以上
冬の間は、こういう路線に楽しみを見出していこうと思いつつ、今回の日記を終わる。
(このシリーズ終わり)
by gossy54200 | 2010-12-30 15:45 | 日記